一般社団法人 日本機械学会(事務局 東京都新宿区・佐藤順一学会長)は8月7日、青函連絡船及び可動橋を機械遺産に認定した。機械遺産とは歴史的意義のある機械遺物を次世代に伝えていくことを目的に2007年に設置されたものでこれまでに50の機械遺物が認定されている。
青函連絡船は、1908年から1988年の青函トンネル開通までの80年間、本州と北海道を結んだ連絡船である。現在、青森市と北海道函館市の2か所で船体が保存・展示されている。今回は、青森駅東口から徒歩約5分、青函連絡船メモリアルシップ 八甲田丸にお邪魔してきた。(取材班)
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八甲田丸は、船体をほぼ当時のまま利用している博物館船で、全長は132.0m、当時の旅客定員は1,286名を誇り、現在の豪華客船の先駆けとなっている。
まず、見せていただいたのは3階の津軽海峡文化コーナー。北海道と青森とをつなぐ交流の品々や当時の生活道具などが展示されており、オレンジ色のライトアップがほどこされた展示会場にはあたたかく懐かしいムードが漂っている。また、ふと上を見ると天井には無数の管が張り巡らされ、かべには船の円窓がそのまま残されており、改めて今、自分が船の中なのだという実感が湧かされる。3階には他にも青函連絡船シアターや青函鉄道連絡船記念館などがある。記念館では、連絡船や鉄道の模型の展示だけでなく、そのままの姿でのこるグリーン席に座り、就航当時と同じように旅客気分も味わえたりする。船長室や寝台室を展示しているコーナーもあり、部屋を覗くと可愛らしい飾り毛布が寝台ベッドを彩っている。飾り毛布は1枚の毛布を折り上げてつくる青函連絡船の伝統的サービスである。お花や日の出、扇など季節や船室の雰囲気に合わせた何十種類ものデザインがあるが、マニュアルはこの世に1つもなく先輩が教えてくれることもないという。つまり、当時の従業員は先輩の技を盗んで覚えてゆくしかなかったのだ。まさに職人技である。
また階段を上った4階のブリッジは、昔は特定の人しか入れなかった場所であり、船の中核部分である。生の操縦室は圧巻で、つい見とれてしまうほどである。毎週末には元機関長さんがボランティアでガイドをしてくれるという。どこにも書かれていないようなことを分かりやすい言葉で楽しく教えてくれるので、会場の子どもたちも目を輝かせて聞いていた。無料のシュミレーションゲームもあるので、家族みんなで楽しめる。
また、展望台からの眺めもすばらしい。展望台は煙突を利用していて、視界360度の見晴らしは最高である。窓越しでなく、直接目に飛びこんでくる青森の海はキラキラと輝いていて本当に美しい。晴れている日にはカップルのデートスポットにもオススメだ。
最後にスタッフさんオススメの1階実物車両展示と地下1階のエンジンルームをみせていただいた。1階では郵便荷物車ユスニ50をはじめとする本物の車両を近くで見ることができる。これは鉄道ファンにもたまらないだろう。海面下にある地下1階では、ひんやりとした空気が漂う中連絡船を動かす大きなディーゼルエンジンが眠っていた。今にも動き出しそうな迫力である。他にも発電室、ボイラー室を見ることができる。
これで地下1階から4階まで見て回ったわけだが、八甲田丸の歴史は知れば知るほど奥が深く1度だけでは見尽くせない。
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週末はボランティアガイドの方が案内してくれるという嬉しいサービスがある。今回はガイドの方に、ブリッジ(連絡船の心臓部、航海の指揮を執る船長など、昔は限られた者しか入れない場所だった)の説明、案内をして頂いた。ガイドの方からは、船の中での出産のお話や、船内結婚式のお話など、大変面白く貴重な話を伺うことができるに違いない。
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さて、青函トンネル開通により役目を終えた青函連絡船の船体であるが、日本や世界各地へ散った。
港に留め置かれるもの。大きく改造されて外国などで展示されるもの。海上ホテルへと変貌をとげたものや、遠き地、地中海で再就航したものなど、それぞれの「余生」を過ごしている。
ちなみに、現在日本国内にある青函連絡船は八甲田丸、摩周丸の2隻である。
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陸奥湾にどっしりと構える八甲田丸。以前はその大きな体で、数多くの人、モノ、そしてみんなの思いを運んでいた。いまでこそ青函トンネルができたため、鉄道での移動ができるようになったが、かつてはいわゆる青函連絡船、船での移動が一般的だった。
昭和63年、青函トンネルを通る列車の運行開始により、本州と北海道を結ぶ橋渡し的役割をとってかわられた青函連絡船。しかし今でも八甲田丸はレストランや会議室、イベント会場として今でも地元住民に親しまれ、地元青森市民と共に生きている。八甲田丸は今にも航行を始めてもおかしくないような姿で、陸奥湾で勇壮に構えている。
(取材班=田名辺一至、工藤佳那子、工藤史真子)
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1964年8月12日に就航開始。歴代青函連絡船は55隻あるが、23年7か月と、現役で就航していた期間が一番長かった。青函連絡船の最終就航便を務める。
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管内展示の様子
1階部分には郵便車両等が眠っている
就航当時のグリーン車の座席
煙突部分を改造して作られた360度展望台からは絶景を望める
石碑に近づくと、石川さゆりさんの津軽海峡冬景色が流れる
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